この記事でわかること
- マンスリーマンションの退去時にかかる可能性がある3つの費用
- 原状回復で借主が負担するもの・しないもの(国土交通省ガイドラインと民法の考え方)
- 途中解約のときに法律で決まっていること(借地借家法38条7項・消費者契約法9条)
- 契約書の「中途解約条項」で確認すべき4つのポイント
- 私の物件での途中解約の実際のルール
「退去のときに、思っていなかったお金を請求されないか心配」「予定より早く出ることになったら、払ったお金はどうなるのか」。名古屋でマンスリーマンションを運営していると、こうしたご質問をいただきます。
結論から言うと、退去時に問題になりやすい費用は「清掃費」「原状回復費」「途中解約の精算」の3つです。清掃費は契約時に前払いしていることが多く、原状回復費は普通に暮らしていれば基本的にかかりません。いちばん差が出るのは途中解約で、返金されるかどうかは、まず契約書の中途解約条項で決まります。ただし、契約書に何を書いてもよいわけではなく、法律で借主が守られている部分もあります。この記事では、その仕組みを運営者の立場から説明します。
2026年10月9日 更新:以前の版では、途中解約について「返金なしが最も多い」と根拠なく書いていたほか、清掃費や保険料の金額目安、解約予告期間の表に出典がありませんでした。これらを削除し、借地借家法38条7項・消費者契約法9条・国土交通省の原状回復ガイドラインにもとづいて全面的に書き直しました。あわせて、私の物件での実際の途中解約ルールを追加しました。
退去時にかかる可能性がある3つの費用
マンスリーマンションは、滞在期間分の料金を入居前にまとめて払うのが一般的です。そのため、退去時の精算は通常の賃貸よりシンプルです。確認しておきたいのは次の3つです。
| 費用 | どんなお金か | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 清掃費 | 退去後に部屋を清掃するための費用。契約時に前払いの形で決まっていることが多い | 見積書・契約書の料金欄 |
| 原状回復費 | 借主の不注意や故意による傷・汚れを直す費用。普通に使っていればかからない | 契約書の原状回復条項・特約 |
| 途中解約の精算 | 予定より早く退去するときの返金や解約金 | 契約書の中途解約条項 |
金額の相場は、運営会社や部屋の広さによってまったく違います。信頼できる統計が見当たらないため、この記事では「相場」は書きません。比べるときは、各社の見積書にある金額をそのまま並べるのが確実です。
清掃費:前払いなら退去時の追加は原則なし
清掃費を契約時に払っている場合、退去時に同じ清掃費をもう一度請求されることは、契約上は想定されていません。見積書や契約書に「清掃費」として金額が書かれているかを確認してください。
参考までに、私の物件では退去時に清掃を行い、清掃費は3万〜4万円前後を入居時(最初)にいただいています。清掃費の金額は物件によって差があります。金額だけで比べるのではなく、どこまで清掃するのか(水回り・エアコン・寝具など)もあわせて確認してください。
ここで知っておきたいのが、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方です。ガイドラインでは、借主が普段の掃除をしている場合、専門業者による部屋全体のハウスクリーニングは貸主の負担となるものの例に挙げられています。一方で借主にも、ゴミの撤去、掃き掃除・拭き掃除、水回りや換気扇・レンジ回りの油汚れの除去といった「通常の清掃」をする義務があるとされています。
マンスリーマンションの清掃費は、この「本来は貸主負担のハウスクリーニング」を、契約で借主の負担にしているものです。ガイドラインは、こうした借主に特別な負担を課す特約について、次の3つの要件を示しています。
- 特約の必要性があり、暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること
- 借主が、通常の原状回復義務を超える負担を負うと認識していること
- 借主が、その負担をする意思表示をしていること
ガイドラインは、将来負担する費用がどの程度になるか、単価などを明示しておくことも紛争防止に欠かせないとしています。清掃費の金額が契約前に書面で示されていれば、借主としても納得したうえで払っていることになります。逆に、契約書に書かれていない「退去清掃費」を後から請求された場合は、根拠を確認してください。
なお、清掃費を払っていても、ゴミを大量に残す、油汚れを放置するといった「通常の清掃」の範囲を守らなかった場合は、別途費用がかかることがあります。退去前の掃除をどこまでやればよいかは、マンスリーマンションのルームクリーニングの記事で詳しく書いています。
原状回復:借主が負担するもの・しないもの
原状回復は「借りたときの状態に完全に戻すこと」ではありません。民法621条では、借主は受け取った後に生じた損傷を元に戻す義務を負うものの、通常の使用による損耗と経年変化はその対象から除くと明記されています。また、借主の責任ではない理由による損傷も対象外です。
国交省のガイドラインも同じ考え方で、原状回復を「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。普通に暮らしてできた傷みの分は、家賃に含まれているという考え方です。
ガイドラインが示す具体例
| 貸主の負担となるもの(例) | 借主の負担となるもの(例) |
|---|---|
| 家具の設置による床やカーペットのへこみ・設置跡 | 飲み物をこぼした後の手入れ不足によるシミ・カビ |
| テレビ・冷蔵庫の後ろの壁の黒ずみ(電気ヤケ) | 引越し作業などで付けた引っかき傷 |
| 日照によるクロスの変色 | タバコのヤニ・臭いによるクロスの変色 |
| 画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度) | 結露を放置して広がったカビ・シミ |
| 破損や紛失がない場合の鍵の交換 | 鍵の紛失・破損による交換 |
| 寿命による設備機器の故障 | 手入れ不足や使い方の誤りによる設備の故障 |
マンスリーマンションは家具・家電付きなので、備え付けの家電を壊した場合が気になると思います。ガイドラインの考え方では、寿命による故障は貸主負担、使い方の誤りなどで壊した場合は借主負担です。
借主が負担する場合も「全額」とは限らない
借主の不注意による傷であっても、修理費の全額を負担するとは限りません。ガイドラインでは、設備などの経過年数に応じて借主の負担割合を減らす考え方をとっています。たとえばカーペットは6年で残存価値が1円になるように計算し、エアコンや冷蔵庫も耐用年数6年の設備として例示されています。古い設備ほど、借主の負担は小さくなります。
ただし、耐用年数を過ぎた設備でも、借主には注意して使う義務があります。故意に付けた落書きを消す費用などは、借主の負担になることがあるとガイドラインにも書かれています。
なお、ガイドラインは法律ではなく、トラブル防止のための一般的なルールを示したものです。契約で特約を結んでいる場合はその内容が優先されることもありますが、その特約は民法90条や消費者契約法8条・9条・10条に反しない範囲に限られます。
途中解約:法律で決まっていること
途中解約で返金があるかどうかは、第一に契約の内容で決まります。ただ、契約書の内容がどこまで有効かは、その契約が法律上どの種類の契約かと、借主が個人か法人かによって変わります。
期間を決めた契約は、原則として途中でやめられない
民法618条は、期間を定めた賃貸借でも、当事者が「期間内に解約をする権利を留保したとき」には解約の申入れができると定めています。言い換えると、契約書に中途解約の定めがなければ、借主の都合だけで期間途中にやめる権利は原則ありません。多くのマンスリーマンションの契約書に中途解約条項があるのは、このためです。
定期借家契約なら、借地借家法38条7項がある
マンスリーマンションの多くは、「定期借家契約」(借地借家法38条)か、「一時使用目的の賃貸借」(同法40条)で貸されています。どちらかによって、途中解約のルールが変わります。
定期借家契約の場合、借地借家法38条7項により、次の条件をすべて満たすと、借主は解約を申し入れることができます。
- 居住用の建物で、借りている部分の床面積が200平方メートル未満であること
- 転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情があること
- その事情で、建物を自分の生活の本拠として使うことが難しくなったこと
この場合、契約は解約を申し入れた日から1か月たつと終了します。そして38条8項により、これより借主に不利な特約は無効です。つまり、定期借家契約で「どんな事情でも途中解約は一切できない」という条項があっても、上の条件に当てはまる場合には、その部分は効力がありません。
注意点もあります。38条7項が使えるのは「やむを得ない事情」がある場合で、単に予定が変わった、別の部屋に移りたいといった理由まで当然に含まれるとは限りません。また、数週間〜数か月の滞在で、その部屋が「生活の本拠」にあたるかどうかは、個別の事情によります。自分のケースに当てはまるか迷うときは、契約書を持って消費生活センター(消費者ホットライン188)などに相談してください。
一時使用目的の契約では、38条7項は使えない
借地借家法40条は、一時使用のための賃貸借であることが明らかな場合、借家に関する章の規定を適用しないと定めています。38条もこの章の規定なので、一時使用目的の契約では38条7項は使えません。この場合は、民法と契約書の中途解約条項に従うことになります。自分の契約がどちらなのかは、契約書のタイトルや条文(「定期建物賃貸借」「一時使用」などの言葉)で確認できます。
高すぎる解約金は、消費者契約法9条で無効になる
個人が事業者から借りる契約は「消費者契約」にあたります。消費者契約法9条1項1号は、契約の解除にともなう違約金などを定める条項について、同じ種類の契約の解除で事業者に生じる「平均的な損害の額」を超える部分を無効としています。消費者庁の逐条解説では、この「平均的な損害」は業界の水準ではなく、その事業者ごとに合理的な根拠で算出される平均値だと説明されています。
また、2022年(令和4年)の法改正で9条2項が設けられ、事業者は、違約金を請求する際に消費者から求められたら、その算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないとされました。解約金が高すぎると感じたら、根拠を尋ねることができます。ただし、「平均的な損害」を超えていることの立証責任は、最高裁の判断では基本的に消費者側にあるとされています。
一方、消費者契約法の「消費者」は、事業のためではない立場で契約する個人です。会社名義の法人契約には消費者契約法は適用されません。出張や研修で会社が契約する場合は、契約書の条項がそのまま適用される前提で確認してください。
契約書の中途解約条項で確認すべき4つのポイント
申込前に、次の4点を契約書や重要事項の説明で確認しておくと、退去時に困りません。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 契約の種類 | 定期建物賃貸借か、一時使用目的の賃貸借か |
| 解約の予告期間 | 退去日の何日前までに、誰に、どの方法で連絡すればよいか |
| 返金の計算方法 | 日割りか、週・月単位か。清掃費など返金されない費目はどれか |
| 解約金・割引の扱い | 予告期間を守れなかったときの解約金の額。長期割引を受けている場合、途中解約で割引がどう扱われるか |
特に長期割引は、途中解約すると割引前の料金で計算し直す、という条項がある場合があります。割引を使うときは、途中解約時の精算方法も必ず読んでおいてください。
私の物件での途中解約と退去時の精算
具体例として、私が名古屋市の中村区・中区・千種区で運営している物件のルールを紹介します。
| 解約の連絡時期 | 精算方法 |
|---|---|
| 退去日の1か月以上前に連絡 | 日割りで精算 |
| 退去日まで1か月を切ってから連絡 | 1か月分の料金を解約手数料としていただく |
退去日の1か月前を過ぎるかどうかで負担が変わるので、予定が変わりそうだとわかった時点で早めにご連絡ください。
また、これまで退去時に追加の費用を請求したことは、今のところありません。普通に暮らしていただければ、退去時に追加でお支払いいただくものは基本的にないと考えてください。
支払い方法は、個人のお客様はクレジットカードのみ、法人のお客様は銀行振込にも対応しています。また、物件の住所への住所変更の届け出はしないようお願いしています。退去後も郵便物が届き続けてしまうためです。通販サイトなどの配送先を物件の住所にしていた場合は、退去前に元に戻しておいてください。

よくある質問
Q. 清掃費を払ったのに、退去時にまた清掃費を請求されることはありますか?
A. 契約時に清掃費を払っている場合、同じ清掃費を二重に請求することは契約上想定されていません。ただし、ゴミの放置や油汚れの放置など、借主がすべき通常の清掃をしなかった場合は、別途費用がかかることがあります。
Q. 途中解約したら、残りの日数分は必ず返金されますか?
A. 必ずではありません。返金の有無と計算方法は、まず契約書の中途解約条項で決まります。ただし、定期借家契約では借地借家法38条7項の要件を満たせば解約の申入れから1か月で契約が終わり、個人の契約では平均的な損害を超える解約金は消費者契約法9条で無効になります。
Q. 備え付けの家電が壊れたら、弁償しなければいけませんか?
A. 寿命による故障は、ガイドラインの考え方では貸主の負担です。使い方の誤りで壊した場合は借主の負担になりえますが、経過年数に応じて負担割合が減る考え方がとられています。壊れたときは、すぐに運営会社へ連絡してください。
Q. 会社名義で契約した場合も、同じルールですか?
A. 消費者契約法は、事業のためではない立場で契約する個人が対象のため、法人契約には適用されません。借地借家法38条7項は「借主が自分の生活の本拠として使うことが難しくなったとき」の規定で、法人契約でどう扱われるかは契約ごとの判断になります。法人契約では、契約書の中途解約条項がより重要になると考えてください。
Q. 退去費用に納得できないときは、どこに相談できますか?
A. まず運営会社に、請求の根拠と内訳を書面で出してもらってください。それでも解決しない場合は、消費者ホットライン188に電話すると、近くの消費生活センターなどの相談窓口を案内してもらえます。
まとめ
- 退去時に確認したい費用は、清掃費・原状回復費・途中解約の精算の3つ
- 清掃費は契約時に金額が決まっていることが多く、前払いなら退去時の二重請求は想定されていない
- 通常の使用による損耗と経年変化は、原状回復の対象外(民法621条)。借主負担でも経過年数で負担割合が減る
- 定期借家契約なら、やむを得ない事情があるとき解約申入れから1か月で終了できる(借地借家法38条7項)。一時使用目的の契約には適用されない
- 個人の契約では、平均的な損害を超える解約金は無効(消費者契約法9条)。法人契約には適用されない
- 申込前に、契約の種類・予告期間・返金の計算方法・解約金と割引の扱いを確認する
退去費用のトラブルを防ぐいちばんの方法は、申込前に中途解約条項を読んでおくことです。わからない条項があれば、契約前に運営会社へ質問してください。
参考資料・出典
- 借地借家法(e-Gov法令検索)第38条・第40条
- 民法(e-Gov法令検索)第617条・第618条・第621条
- 消費者契約法(e-Gov法令検索)第2条・第9条
- 消費者契約法 逐条解説 第9条(消費者庁)
- 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)(国土交通省)
- 同ガイドライン 第1章 原状回復にかかるガイドライン(PDF・国土交通省住宅局)
- 消費者ホットライン188(消費者庁)


